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東京デイズ
No.4



 

 強引な男もいいもんだ、とか思ったり

月日がたつにつれて、私は1階に出入りすることが多くなった。管理人であるアジュモニが不在なので、1・3階に住む女子、2・4階に住む男子の行き来が激しくなり、男は外から彼女を連れ込み・・とだんだん寄宿舎内は乱れていった。

バイトが終われば、大久保のアジュモニの病院に寄って帰る。そんな日々が続いた。
チヨンさんの部屋で一緒に寝ることも多くなった。夜遅く真っ赤な顔をして私は部屋に帰る。オンニは、自分と一緒にいることに不満があるから私がそうなのだ、と思っていたらしい。彼女と私の生活のリズムは、全く正反対だった。どちらかが寝ればどちらかが起きていて、彼女はいつも夜3時くらいまでテレビを見ている。(私はテレビや電気がついていると基本的に眠れない)。口を開けば、日本での生活の不便さについてしか言わない。彼女とちゃんと話す機会がなかったので、すれ違っていただけかもしれないが、だんだん彼女と顔を合わすのが苦痛になってきたのであった。

牧師がおごってくれるといえば、椎名町駅近くの和民(チェーン店の居酒屋)に集まった。寄宿生の男どもは、遠慮しないでガンガン飲む。その飲みっぷりは半端じゃない。
焼酎を浴びるように飲んでいる7、8人くらいの男を前に、『それにしてもこれだけの男が一緒に住んでいるんだなあ』と妙な気分になった。
隣に座っていた一つ下の男は、ヌナ(年下の男が姉さんと呼ぶ時の言葉)ヌナ、と甘えながらプレステを貸して貸してとうるさいので、テンションがどんどん下がっていった。
4階のキョンチョル氏は料理が好きで、チヂミや冷麺もどき、キムチなどを作ると私を呼んでくれて、一緒に食べながら飲んだ。その席でいつもスンゴンが、酔うといつも私が自分の彼女で、寄宿舎を出て一緒に住むつもりだ、といいながら触ってくるので、
『なんて、失礼な男!』と大きな背中をバシバシ叩いた。まわりも冷やかすので、いつのまにか二人はできているらしい、というところまでになってしまっていた。

また、私・チヨンさん・スンゴンの3人になれば、必ず酒になり、歌舞伎町で飲んで、カラオケルームで夜を明かして帰り、毎日のようにスンゴンの部屋で、チヨンさんの部屋で遊んで・・とスンゴンと過ごす時間が増えたからだろうか。粗野で礼儀がなくて、俺は男だ、お前は女なんだから女らしくしてればいいんだ!なスンゴン(ちっともタイプじゃないのに!!)がなんとなく心にひっかかるようになってしまった。
酔えば、寝不足の目をさらに真っ赤にして『ハジャーー(※ちょっとはずかしいので、韓国語がわかる方のみわかっていただければいいです・・)』とのしかかってきた。
電話で呼び出されれば、ちゃんと2階に下りていった。
今考えても、どうかしてたなー、私ってば・・


その頃、お金に困っていたアジュモニは、私に病院に、入院費の分割をお願いする電話をさせたり、昔お金を貸していた人たちのバイト先を自分の代わりにたずねて、お金を返してもらってほしいと、頼んできた。私は、歌舞伎町や大久保のラーメン屋や韓国食堂をたずねて聞いてみるが、みんな昔のことなのでいるわけがなかった。
その時もなぜかスンゴンと一緒であった。一番街のラーメン屋を出て、コマ劇場の前の広場に座ってジュースを飲む。チヨンさんがいないとき二人きりになると、言葉も通じないし、全てが強引でなんだかなーと困ったが、韓国男に魅力を感じる日本人女性の気持ちがわかったようなような気がした。
「その服、ヘンです。その靴もヘン。女の子の着る服を着ます。」
「うるさいなー。あたしが何着ようとあんたに関係ないでしょー。あたしはこの靴が好きなのー(ベトナムのビロード地のサンダル)。」
「あー、ワタシは、日本語わかりませんから わかりません。」
「ちゃんと勉強しろよっ!。」

池袋の安い居酒屋に入って、ビール。むこうはウィスキーを浴びるように飲んでいた。
深夜1時。池袋から要町までふらふら歩いていると、スンゴンのケータイが鳴った。
2階のハルモニからだった。
宿舎に着いて、2階へ。ハルモニは泣いていた。アイゴーといいながらスンゴンに抱きついた。よくわからない展開にぼけーとする私。ハルモニは、ぶどうジュースを私に飲めといい、タンスから赤いジャケットを出して、私にやるというしぐさをした。
『りうめいもいろ。』
ものすごく寂しくなって韓国のことが思いだされて、悲しくなったから、泣いているのだという。
(不思議なことに、2週間ぐらい後、彼女の息子が自殺したという知らせが入り、2階からはしばらく『アイゴー』『セサゲー』と泣き声が聞こえてくる夜が続いた・・・)
スンゴンは、30分ぐらいハルモニを抱いていた。私はその横でただぶどうジュースを飲んでいた。

「カジャ(行こう)。」
「どこへ?」
「ホテルです。」
「はあ???」
ばあさまをなぐさめて、酒に酔ってもそれかい!
面白そうだから、まあいいか、と納得させた。笑いのネタのためだ。
そんな好奇心が先にうずくから、いけない。

私たちは、また住宅街に出た。スンゴンが、スナックに入っていって、大きな声で
「ホテルはどこにありますかぁ?」

とママらしきおばさんに聞いている。もう恥ずかしくて恥ずかしくて、その場を離れた。
大きな通りに出た。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』のロケで使われたというホテルが見えた。
「ラーメンをたべます。」
チェーン店のラーメン屋に入った。もう2時を過ぎていた。ズズーと豪快に麺をすすってモグモグしたあと、眠くなってきてボーっとしていた私を見ながら、
「私はヴァージンです。」

と一言。ブッ。漫画みたいに吹き出した。
「違う、違う、ドーテイでしょ、ドーテイ・・」
「ドーテイが何ですか。」
「うそだあ~。君ドーテイじゃあないでしょう・・そんなこと、こんなところで言わないでよ~恥ずかしい!」
「?」
このあとの展開は想像にお任せします・・どうなったかは。