ソウルの気になる人たち 2 りな:乙支路(ウルチロ)に、気になる人がいたそうですね。
りう:はい、某サイトの掲示板に写真まで投稿してしまったくらい気になっていた ハラボジ(おじいさん)です。 ソウルに旅行に行ったら必ず寄ってしまう明洞のロッテデパートにつながっている駅・・なので結構観光客も知っているんじゃないかしら。 地下鉄2号線の乙支路入口(ウルチロイック)駅は改札が二つあるんですけど、そのちょうど真ん中に広場があるんです。 あ、ちなみにその近くのプンシク(※3)屋で昼ごはん夜ごはん食べてましたなあ。 その広場には、まあお決まりでダウナー系やレゲエ系の浮浪者がたまって座っているんですが、昼はハラボジの一人舞台になります。
りな:ハラボジは何するんですか?
りう:フラフープ。
りな:フラフープ?
りう:白髪のもみ上げ、サングラスをかけてフラフープを、音楽にあわせてまわしている。60歳くらいかなあ。これはきっと中国だったらよくある風景なんだろうけど(本当か?!)も、ワタクシが気になるのは、その広場でホイットニー・ヒューストンに合わせてフラフープをいくつもまわす、という行為に何が彼を向かわせているのか、その一点ですねえ。 どうしてタプコル公園の前にある郵便局内の席に、一日中座るという行為を選ばなかったのか。
りな:60にして、大道芸人を目指しているのかもしれない?それはそれで素敵な 第2の人生ですよね?
りう:でも、そのハラボジはまわりなんて全然見てない。ただニコニコと笑っていて、寄り目になっちゃって、かなりファニーな表情でフラフープを回してました。 自分の頭も回してました。 あるときはカッ(※4)っていう帽子をかぶって、ちょっと韓国伝統スタイルな格好をして足袋みたいのを履いて回っていたなあ・・あるときはロシア人がかぶりそうな毛の帽子かぶって・・
りな:で、そのハラボジがいるのを毎日のようにチェックしていたわけですね?
りう:はい、チェックです(笑) ちょうど市庁付近の会社で日本語バイトしていて、終わると地下鉄構内を通ってナクチポックム(たこの辛く炒めたもの)で有名な武橋洞(ムギョドン)あたりを通って観光公社でメールのチェック、自販のコピを飲んで、トイレ行って・・ そしてチョンノに向かうためにウルチロイックの駅を通るのです。 いると嬉しい。みんながなんじゃありゃ、って顔しながら通り過ぎて、その顔を見るのも好きでした。
りな:で、そのハラボジは今でもフラフープをまわしてるんですか?
りう:いや、それが最近見かけなくなったのです。さみしいですね・・ 早く復帰してほしいです。 ええと、次はワタクシが通り過ぎる人々の中で一番素敵だったハラボジのお話。 このハラボジもしかしたら芸能人かもしれない。ワタクシの記憶がぼやけているのですが、何とかフェスティバルのポスターにこのハラボジを見た気がするのです。よくわからんけども。
りな:りうめいさんそれにしてもハラボジ好きですね(笑) 笠智衆好きですもんね。
りう:いやいや(笑)、チョンノ3から2街へ行く途中、そうですね、場所的には、第一銀行とフーアーユーというカジュアルブランドのお店の入ったビルらへんです。シルクハットをかぶり、ウエストを絞った黒の皮コート、黒のロングブーツにニッカボッカ的にふくらみのあるズボンを入れて歩いてました。 白くて長いひげをたくわえていて、なんとなくイメージは明治の軍人。 威厳があるというか。
りな:本当にそんな格好をしたハラボジを見たんですか?
りう:はい。だって彼を見たのはそれが2回目だったから、驚いたので途中まで尾行しちゃいましたよ。
りな:どこでそのハラボジを??
りう:これは本当は隠したい過去なんだけども、某サイトで在ソウル日本人に向けたカラオケ大会のお知らせがあったんです。で、暇だし、と思いエントリーしたんです。 自分の歌ったデモテープを提出する決まりになってたんですけど、まあ行けばなるだろうと、前日にちょこっと練習して世宗文化会館の(横に)あるホールに行ったんです。 そしたらカラオケ大会のカの字もない。 韓国の新聞社主催で“ボランティア何とか授与式”という立て看板があって、花がいっぱい飾ってあって、そこらじゅうで挨拶をしあっているニコニコ顔の韓国人たちのみ。 まいったなあ、ってとりあえず日本人探しを始めたんですけどいない。 場所をまちがえたかなあって不安になって、偉そうな人を探してきいてみると、控え室はあっちだから、とパンフレットをもらったら・・
りな:そのパンフレットには、なんと?
りう:もう覚えてないけども、町でボランティア活動をして貢献した人たちの授賞式でした。で、余興にB級歌手たちがうたうプログラム、その下に小さく日本人たちによるお祝いって、(カラオケに参加する)日本人たちの間に合わせの写真が載ってて(笑)。ワタクシの名前は間違ってるし(笑)
りな:で、帰らなかったんですか(笑)
りう:せっかく来たしと最初はお祝いの踊りとかパンソリとか客席で見てたんですけど・・・ いやあ、とりあえず控え室にいったです、とりあえず。そしたらそこにB級歌手たちが待機してて・・(と顔をゆがめはじめて笑いをこらえる)
りな:ああ、その歌手たちがりうめいさんのツボをぐいぐいと押したんですね?
りう:(笑いをこらえながら)はい・・ほらインチキ臭プンプンさせてるタレントそっくりさんいるじゃないですか、それよりももう何倍もインチキ臭い人たちがいて・・すごい衣装着てて偉そうに待機してたんです。そのうちの一人が髪が真オレンジに染めてて、衣装が真緑のかえるみたいなスーツで・・・その後ろに真むらさきのフリフリのドレスを着たアジュンマがいて・・みんながみんなツンツンしてて。
りな:そのカラオケ大会とハラボジの接点は??
りう:大ありです。だってその待機室にいたんだもの、そのハラボジが! そのときクリスマスツリーに巻きつけるようなラメラメした飾りを体に巻いてて、 今にもフォッ、フォッ、フォッといいそうな感じで歩いていて・・
りな:(何もいえなくて黙る)
りう:もう目が点になっちゃってあのハラボジは一体何なんだ??といぶかしがっていたら、すみのほうで固まっている美人姉妹を見つけまして。 某サイトを見てエントリーしたものの、状況が全然つかめなくておどおどしてしてたのです。お姉さんがS.E.Sの歌を歌うつもりできたんだけど、この歌手たちと一緒に出るのかなあってものすごく不安がっていて。 話をしてたら、世間はせまいもので(というか韓国に興味ある人は、友達の友達でつながってしまうもの)ワタクシが通っていた某韓国語塾のクラスメイトだったSちゃんの友達だったんです、妹さんが。 それでSちゃん話をしてたんですが、やっぱあのハラボジが気になるよね、と3人でそのハラボジに近づき、お姉さんのカメラでみんなで写真を撮りました。
りな:じゃあその写真にはりうめいさんとハラボジが写ってるわけですね?? それをここに公開するのが一番いいじゃないですか!!
りう:あれば公開しますよ~私の目のところはぼかし入れて(笑) カラオケ大会にはオチがあります。この授賞式のプログラム進行がめちゃくちゃで、さんざんおしてしまい、B級歌手たちは自分たちの出番がまったく来ないので、みんなそれぞれ怒ってしまって、緑のかえるなんかもう、すごく怒っちゃって、マネージャーがまあまあとなだめていて、そのやりとりを必死に笑いをこらえてみてたんですけども。 いきなり舞台にあがってくれって指示が来て順に歌手が歌を歌ってたんですけど、時間の都合で1番しか歌えなくて、控え室に戻ってきた歌手たちは文句ブーブー。そのあとに日本人たちが、自分のおかれてる状況がまったくわからないまま、舞台に出て行って歌を歌って。その様子を控え室のモニターで見てたんですけど、女性の方、アイドル振り付けでがんばってました。 その後お姉さんが、S.E.S歌って、ワタクシの番になって舞台にあがったはいいけども、もうほぼお客さん帰っちゃってて、ライトがまぶしかったんですけども、見えましたよ。みんな帰っていってる(笑) なんで韓国まで来て、こんな切ない目に遭っているのか歌っているうちに悲しくなって歌詞間違いまくり。(しみじみ)
りな:ププッ。し、失礼。で、ちなみに何歌ったんですか?
りう:(顔を赤らめながら)キム・ユナの『タム』です。
りな:それでハラボジの写真は??
りう:はい、姉妹はとっくに姿を消してました。忘れたい出来事ですもんねえ。 連絡先を聞かなかったんです。あの写真、あのお姉さん持っているんだと思うと、ワタクシも忘れたい過去を完全に消し去ることはできない(笑) でも今はこのサイトのいいネタになったのに、と残念な気持ちでいっぱいですねえ。 もう早くこの場を立ち去らねば、と終わったとたんに会場をあとにしました。 帰りに歯磨き粉とトロフィーを渡されました。プラスチックでできたチャチなトロフィー。家につくと、ルームメイトが“どうだった?カラオケ大会、ちゃんと歌えたの?なんかもらえたの?”と聞いてくるんでトロフィー見せたら馬鹿笑いされました・・・
りな:歯磨き粉ってのも切ないですねえ。
りう:ええ・・トロフィは捨てましたよ。なかったことにしました。 そんなわけで、控え室で見たまんまのハラボジをチョンノで見かけたのは、ちょっと、いやかなり嬉しかったですね。外国暮らしで同じ人に偶然会うなんてことないじゃないですか。 ロングブーツを履きこなすハラボジなんてソウルでしか見られないですよ(笑) さすが韓国って嬉しくなりますね。李博士(イ・パクサ)もロングブーツ履いてたし。(こちらの日記もどうぞ)
つづく予定
※3 プンシク 漢字で粉食と書く。炭水化物系の腹持ちのいい食べ物。 ノリマキ、トッポッキ、てんぷらなど。
※4 カッ 朝鮮時代、男子がかぶっていた馬の毛でできた黒い帽子
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