読みきり
死なせる



 死なせる
 

 

朝、寒くて目が覚める。小さい秋を見つけて喜ぶ時期が来たと思っていたら、あっという間に街は赤や黄色に色づいて、冷たい風が吹くたびに、スカートをはいたことを後悔する。

天気
がいいので散歩をしようと、134番バスで通るたびに気になっていた、和風の家屋が並んでいるところに下りた。
光化門(カンファムン)を通り過ぎ、三星江北病院(サムソンビョンウォン)を通り過ぎてちょっと行ったところにある。

家と家の間の細い道を何人かの年寄りが通っていく。
階段を登ると銀杏並木の続く通りに出た。
少し高いところにあるので、ソウルを見下ろすような感じになる。ここをまっすぐ歩いていけば、きっとアヒョンに出るだろうとそのまま歩き続けた。

小さな市場通りにでた。赤い唐辛子が道路に広げられている。店のビニールのひさしの所にも赤唐辛子だ。アジュモニたちは談笑しながらぎんなんの殻をむき、にんにくをむき、ふきの筋を取っている。

どこからか、子供の弾く下手なピアノが聞こえてくる。アジョシたちも将棋をさしていて、子供は子猫がミルクを飲むのを不思議そうに見つめ、荒い手つきでその子猫を何回もなでている。
すぐ下では渋滞で車はなかなか動かず、絶え間なくクラクションが鳴り響き、黒い煙で空気が濁っている道路があるのに、この市場通りには、平和な午後3時がゆっくりと通り過ぎていく。

急な坂が見えた。大きなダンボールを抱えた、赤いワンピースの女の子が立っている。
そのダンボールの中をじっと見つめて動かない。近づいて、のぞくと小さな小さな一羽の鶉(うずら)のヒナだった。

私は何も言わずにただ見ていたのだが、その女の子が、
「あの・・ね、足がないから死なせるの」
と独り言のように私に言った。
「え?死なせるって?今死なせるっていったの?」

ダンボールから排水溝にうつる彼女の視線を追った。排水溝に落ちそうになっているよれよれの鶉に視線がぶつかった。
彼女はまたダンボールの鶉を見て、それ以上何もいわないでニコニコと笑っている。
辺りは、縫製工場からのアイロンの仕上げ剤の匂いと水蒸気とでむっとしていた。

5,6歳に見えた彼女は、どうやって、いつ『死なせる』という言葉を覚えたのだろう。