殺人蝶を追う女
'78(宇進フィルム) (監督)キム・ギヨン (脚本)イ・ムヌン (音楽)ハン・サンギ (出演)キム・ジャオク、キム・ジョンチル、キム・マン
韓国のカルト映画監督、キム・ギヨンの作品。 独特なタッチで人間の内面を深く描いた作品が多く、『下女』『火女』『蟲女』といった“女シリーズ”が有名だが、『玄界灘は知っている』『高麗葬』などの重厚な作品もある。 彼の経歴も独特で、十代の頃は美術をこころざすもあきらめ、その後医学の道へすすみ、歯科医の資格取得。京都にも留学したことがあるそう。
この『殺人蝶を追う女』は、タイトルがシビレルくらい素敵だが、映画の内容とは全く関係がありませぬ。 幻想と妄想を行ったり来たりで、見ているとこっちがおかしくなること必至。 他の映画と比べても、話があるようで全くない素晴らしい映画なのだ。話を追う、なんてことはしないほうが、精神衛生上よいと思われる。
ヨンゴルという男子大学生の現実と夢、彼の妄想の三部でされている。
“意志の勝利”という本を彼に売った老人が、生きる意志さえあれば永遠だのナンだのいうので、彼は老人を刺して殺してしまう。警察に自首するが、死体の代わりに灰しかなかったといって、そのまま終わってしまう。 “生きる意志”が頭から離れないヨンゴル。 彼は友人と一緒にある洞くつに行って、そこで骸骨を手に入れ持ち帰る。 その骸骨が、2千年前の絶世美女に変身。彼女は男を探していて、 生きるためにはヒトの肝臓が必要だと、10日以内に何とかしないと・・と彼に助けを求める。 彼は彼女を助けるために、お金を稼ごうと持ってきたのが“お菓子製造機”。この製造機が音を立てているところでのセックスシーン、大笑い。
ヨンゴルはある考古学の教授に、骸骨を調べてほしいと依頼。 教授には娘キョンヒがいた。 彼女の友人が、彼女の目の前で毒を飲んで自殺したのがキョンヒのトラウマになっており、いつも夢に出てきて自分に自殺を迫るので、ヨンゴルにも一緒に自殺してほしいと迫る。
骸骨を調べているときに、教授の下へ生首が送られてきたり、と不可解なことが起こるのだが、自殺を迫られたヨンゴルは彼女から逃げてしまう。 しかし。 とある日、ヨンゴルの生首が教授の下に届く。 キョンヒは幸福のあまり倒れてしまう(!?) その生首は、“生きる意志”について語りだす。 教授はその生首とけんかして死んでしまう。教授は大きな蝶になって、娘を連れて飛んでいってしまう。
ある人曰く、この映画はSF、ホラー、青春、ブルジョアロマンス(そんなジャンルあったんかいな!)をうまく組み合わせた映画だと。 オープニングとエンディングは、異様に明るいので、確かに青春してるかもしれないが・・
どこまで妄想か・・?なんてことは抜きにして、怖いんだけども、どこか狂っていながらも、でも青春映画のシーンが出てきて、SFで・・ 突然流れを中断するように画面変わるのは、狙ってるのか??と思うと、キム・ギヨンって確信犯? 映画文法にわざと逆らうような、と思えたり。
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』とか見ても面白さのわかる人、あるいは、夢野久作の『ドグラ・マグラ』を読破できるような方なら 作品をさらに楽しむことができるだろう・・ 私の場合、途中の生首からわけがわからなくなって、ぼけっとしてたら いつのまにか教授がでっかい蝶になっててびっくり!目が覚めたよ、みたいな。
ちなみに、韓国の中古ビデオ屋さんに行けば、置いてある率が高いです。
※ちなみに『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』は、八重子さんのページアヌトパンダ・アニルッダに評があります。
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