写真が見つからないのでサントラ

霧(アンゲ)

'67
(泰昌興業)
(監督)キム・スヨン
(脚本)キム・スンオク
(音楽)イ・ボンゾ
(出演)シン・ソンイル、ユン・ジョンヒ、イ・ビンファ



キム・スンオクの短編小説『霧津紀行』を韓国映画のモダニスト、
キム・スヨンが映画化したもの。
脚本を原作者が担当していて、画面はあまり動かないで、長ったらしいセリフがずっと・・と途中で眠くなるかもしれないが、映画全体を覆うアンニュイ感がたまらない。砂浜で情事を重ねる男女・・・
キム監督が、この作品でもって『韓国のアントニオーニ』と呼ばれたのもうなずける。

若くてお金持ちの未亡人と結婚した、“私”-ユン・ヒジュンは、ある製薬会社に勤めていて、もうすぐ専務になろうとする33歳の男である。
結婚はあくまでも自分の出世のためであった。出世のためなら何でもできると彼は思っている。
ある日妻のすすめで、自分の田舎、霧津(ムジン)に行くことに決めた。霧津にはいつも濃い霧がかかっていて、霧津といえば霧で有名であった。

ヒジュンは、そこで中学校の教師をしている後輩のパク、今はその土地の税務署署長をしている同級生チョに会う。彼らはソウルで成功したヒジュンをとてもうらやましがっていた。
その酒の席でヒジュンは、中学校の音楽教師ハ・インスクに出会う。
彼女は田舎でくすぶっているのに不満を持っており、ソウルに行くことを強く願っていた。
大学時代声楽を習い、未来に明るい夢を見ていた彼女も、今では酒の席で手垢のついた流行歌を余興で歌わされているような、いわば『負け組』。

そんなインスクを過去の自分と重ね合わせて見るヒジュンは、彼女と翌日会う約束をし、二人は情事を重ねるのだが・・

これが韓国の片田舎?と疑ってしまうほど、素敵な映像。
砂浜で情事を重ねれば重ねるほど虚しくなっていく、二人。
会話も禅問答みたいに、まわりまわったセリフでグッド!
何度も繰り返されるテーマ曲『霧』は、けだるさ満点のサックスに、
チョン・フンヒの声がうまくからまって、音楽が非常に大きな効果を上げている。



なお原作は、岩波書店から出ている『韓国短編小説選』(1998)に
収録されているよう。
この本、本屋さんにあるといいのだけど・・
どのように翻訳されているのかも気になるので、見かけた人は教えてください。
いろんな人に読んでもらいたいなあ・・韓国の教科書にのっているような、韓国現代文学を代表する作家キム・スンオクの作品ゆえ。