誤発弾(オバルタン)
'61(大韓映画制作) (監督)ユ・ヒョンモク (脚本)イ・ジョンギ (音楽)キム・ソンテ (出演)チェ・ムリョン、キム・ジンギュ、ムン・ジョンスク ソ・エジャ、キム・へジョン
激しく降り注ぐヘッドライトの狂射、狂射。 狂った車列の速度、引き裂かれる金属音のうずまき。
電光の乱射 今は少し詩的だ、だが狂っている。 こんな小難しい文章で始まる『誤発弾』のシナリオを、ある代々木のマンションの一室で、韓国映画おたくな方を含む4、5人で読んでいたのは、3年も前の話である。
それはいいとして。
ある一家族の悲惨な生活の断面を、出口なし、救いなしで一気に見せる映画。 主人公のチョルホは歯が痛いのだけども、病院に行きかねていた。 朝鮮戦争後の彼の生活は、貧乏と苦痛の中。
常に「行こう!」と叫び続ける年老いた精神異常の母、妊娠中の妻、毎日酒を飲んで虚無的に生きる弟ヨンホ、戦争のため障害が残り破れかぶれになった恋人キョンシクに邪険にされ、アメリカ駐屯兵に体を売る妹ミスク、お金がないというのに和信デパートに連れて行けだの靴買ってだのせがむ娘。
不幸のオンパレードにさらに拍車がかかりまくり!
ただただ計理士事務所での仕事を続けるチョルホとは反対に、弟ヨンホは、久しぶりに会った元従軍看護婦ソルヒの自殺に強いショックを受け、兄のような生ける屍になりたくない、と思うようになる。 そして戦友たちと銀行強盗をたくらむが失敗。 チョルホがヨンホを警察に迎えに行く頃、妻は出産の時に死んでしまう。 次々と襲いかかる不幸の連続に疲れ切ったチョルホは、ついに歯を抜く決心をする。(←これは生きる希望を暗喩)
頬を押さえながら食堂に入り、 「ソルロンタン・・」 と注文するも、あまりの痛さに食べずに食堂をあとにする。
酒に酔い、血を吐きながらタクシーに乗るチョルホ。 運転手に行き先を告げるも、行き先を何度も変える。彼はもうどこに行っていいのかわからなくなっていた。 父として、夫として、兄として、会計士事務所の書記として、たくさんの役割がありすぎて、方向を失った自分が、誤って発射された『誤発弾』だと、そこで気がつくのであった・・
この映画の老婆の『行こう!』というセリフが、“北へ”行こうという意味ではないか?と疑われ、また戦後の貧困生活をあまりにもリアルに描いた、として当時のパク・チョンヒ軍事政権が圧力をかけて、上映禁止になったそう。
南大門市場、忠武路、ソウル駅、清渓川路(赤ちゃん背負った 首吊り死体も出てくる)、ホンアム洞-南大門に近い坂の多い町、 (当時はバラック小屋の多いところで、こういった山にある町を皮肉ってタルトンネ、つまり月に近いという意味で月の町と呼んでいた)などが出てくる。 当時のソウルの様子を知ることができる貴重な映像でもある。 ユ・ヒョンモク監督自身もそうおっしゃっていた。 (2003年、分断の映画特集でゲストとして呼ばれた時)
何度見ても飽きない名作。大型ビデオショップに行けば借りられるかも、名作シリーズの一つとして出ていたはず。 最近韓国映画が人気と聞いているし・・
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